クモリン 小さな生き物のつぶやき

つぶやくように詩を作っていきたいです

『茶碗の欠片 杉山なか女と地方病(日本住血吸虫病)橘田活子叙事詩集』

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昨年、寄生虫館に行った時 日本住血吸虫の特設展をやっていた

日本住血吸虫の中間宿主 ミヤイリガイの小さいことに驚き、

この貝が中間宿主であること突き止めた先人の努力に感動。

ネットで日本住血吸虫について調べまくった。

いつもは読まないウィキペディアだけれど、「地方病(日本住血吸虫症)」はプリントアウトしてい読んだ。A4用紙で38枚!ウィキペディアを書いた人は日本住血吸虫症と人々の戦いに感動したから、これだけ調べ上げたのだと思う。

この病になった人たちが茶碗の欠片と言われたことも、杉山なかさんのことも書かれていた。

水腫膨張茶碗の欠片……この病に罹ると、割れた茶碗同様二度と元に戻らない

杉山なか……この病気の原因究明に役立ててほしいと、自ら死後の解剖を申し出た人

 

それで、「茶碗の欠片」と「杉山なか」で検索していたら、この叙事詩集にたどり着いた。

迷わず買った。

地方病との戦いの歴史が私の頭の中に繰り広げられた。100年以上の歳月……

 

『橘田活子叙事詩集 茶碗の欠片 杉山なか女と地方病(日本住血吸虫病)』

 

 

 

 

違う道を進んだら (タイノエとオオグソクムシ)

   違う道を進んだら

 

遙か昔は 同じ仲間?

タイノエとオオグソクムシ

「寄生性」と「自由生活性」

標本が寄生虫館で並べて展示されていた

 

タイノエは

魚の栄養をちゃっかりと

食べるものには不自由しないけれど

寄生した魚の中で暮らすしかない

 

オオグソクムシ

食べるものは 自分で探す

食べるのに困ることはあるかも知れないけれど

自由に動き回れる

 

どちらが良いとか 言えないけれど

違う道を進んでいくと

 

まるっきり違う生き方になるんだな……

痛みを忘れて泣いた夜

   痛みを忘れて泣いた夜 

 

足趾の手術で入院した時のこと

向かいのベッドのAさんは 膝を手術した八十才

世話好きで それにおしゃべり大好きで

お子さん お孫さんの話やら ご近所さんの話やら

次から次へと 同じ話を何回も

その中で一回しかしなかった話がある

六ヶ月前に亡くなったおつれあいとの話

 

脳梗塞で寝たきりになった夫との六年間

「床ずれを作ったことはなかった」と

Aさん 胸を張って言う

「私がバカなことを言って笑わせると『ばぁーかぁ』って言うのは分かるのよ

しゃべれないいだけど それだけは」

Aさん 嬉しそうに言う

そして ある時 Aさんは

夫のわずかに動く手に タオルを握らせて

「お父さん 私 背中が痒いんだけど それで掻いてくれる」と

言ったら 掻いてくれたんだって だから

「お父さん ありがとう 気持ちよかったよ」と

言ったんだって……

 

病院の夜は長い いつもは声を殺してうめくのに

その話を聞いた夜

おつれあいが受け取った「ありがとう」を

何度も何度も噛み締めて

私は声を忍ばせ 泣いていた

上野の地下道 (上野の地下道に行った時のこと)

   上野の地下道

 

その日の上野の地下道は 上の賑わいをよそにして

ひっそりとしていた

 

西村滋の『お菓子放浪記』で

孤児のシゲル少年がここで一緒に暮らしたのは

戦争孤児の子どもたち

西村滋は二〇一六年に九十一才で亡くなった

語る人がいなくなる

 

七十年の歳月で空気もすっかり入れ替わり

湿っているのに ひんやり冷ややかで

「おまえは 戦火を知らないね」と言っているようだ

そう、昭和三十年生まれの私は知らない

 

空襲で家を焼かれ 親を失いここに来た子どもたち

飢えや寒さ 蚤虱 糞尿や腐った物の匂い

あふれるくらい人がいて 毎日何人も亡くなった

生きるためにかっぱらい 大人にぼこぼこに殴られる

浮浪児と言われ嫌われて

狩りこみで 逃げないように丸裸

汚いからと水を掛けられる……

 

行ってみたって 今の上野があるだけだ

それは分かっていたけれど。

 

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二〇二〇年 私にできることは

   私にできることは

 

二〇二〇年

ウイルスとの戦い

 

私にできることは

ウイルスを運ばないように

家にいること

 

いろいろな人の顔が浮かぶ

離れて暮らす 高齢の義母 娘夫婦 兄夫婦

一緒に散歩する友人

足が痛いとき カゴを台まで運んでくれたスーパーの店員さん

手術の時 お世話になった病院の人

電車の中でにっこりしてくれた幼い子

バスや電車で 席を譲ってくれた人

「気を付けてお帰りください」と言ってくれたバスの運転手さん

 

みんなの笑顔を見たいから

家にいる

終息したら 義母にいっぱい会いに行く

 

だから 今は 

家にいる