クモリン 小さな生き物のつぶやき

つぶやくように詩を作っていきたいです

上野の地下道 (上野の地下道に行った時のこと)

   上野の地下道

 

その日の上野の地下道は 上の賑わいをよそにして

ひっそりとしていた

 

西村滋の『お菓子放浪記』で

孤児のシゲル少年がここで一緒に暮らしたのは

戦争孤児の子どもたち

西村滋は二〇一六年に九十一才で亡くなった

語る人がいなくなる

 

七十年の歳月で空気もすっかり入れ替わり

湿っているのに ひんやり冷ややかで

「おまえは 戦火を知らないね」と言っているようだ

そう、昭和三十年生まれの私は知らない

 

空襲で家を焼かれ 親を失いここに来た子どもたち

飢えや寒さ 蚤虱 糞尿や腐った物の匂い

あふれるくらい人がいて 毎日何人も亡くなった

生きるためにかっぱらい 大人にぼこぼこに殴られる

浮浪児と言われ嫌われて

狩りこみで 逃げないように丸裸

汚いからと水を掛けられる……

 

行ってみたって 今の上野があるだけだ

それは分かっていたけれど。

 

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