2020-08-30 最期の場所 セミ 最期の場所 セミ どこにそんな力が残っていたのだろう 道に横たわっていたアブラゼミ 命がないものと思って 手に乗せた その手を払いのけるように 飛んでいった 穏やかに最期を迎える場所を目指して 飛んでいった
2020-06-21 お得な食べ物 詩 お得な食べ物 中身を食べた貝殻を きれいに洗って 乾かして 布の切れ端で包み込み 糸で縫う 紐を付ければ ちょっとした アクセサリーの出来上がり 食べ終わった後も楽しめる お得な食べ物だと 子どもの頃思ってた アサリのお味噌汁を見るたび思い出す。
2020-06-07 アカボシゴマダラが飛んでいく 詩 生き物 アカボシゴマダラが飛んでいく 千葉県北西部 アカボシゴマダラが飛んでいる このチョウを初めて見たのは…… 東京都日野市 多摩動物公園 木々が茂るユキヒョウ舎前 手すりに止まっていた 外国からの観光客らしき人が 「キレイデスネ」 と言った 私は見たことがないチョウに戸惑いながら 「そうですね」 と答えた あれから十年 ドンドン増え ドンドン分布域が広がる 要注意外来生物、 生態系被害防止外来種、 特定外来生物 連れてこられた土地で命を繋いできただけなのに 悪者になった 目の前のアカボシゴマダラは 「人間のやることなど 知ったことではない」というように どこかに飛んでいった
2020-05-23 ペン型注射器 詩 リウマチ ペン型注射器 リウマチの生物学的製剤の自己注射 十余年 シリンジ型を週二回 今は ペン型を週一回 補助具を使うシリンジ型では液漏れさせたこともあったっけ パートの時給 十時間分ぐらいが無駄に消えた…… ペン型は 打つ前の空気抜きも必要ない キャップを取り 消毒した皮膚に押し当てる 針が刺さった痛みにホッとして あとは数秒かかるだけ 直径1.5㎝長さ15㎝ほどのペン型注射器は 「痛みや変形がある手でも 簡単に注射できると良いな」という声と それに応えた人々の工夫で できている
2020-05-18 距離 詩 距離 高校の時 距離がなくなるのを知った 的に向かい 揖 足踏み 胴造り 弓構え 打起し 引き分け 会 離れ 残身 二十八メートルの矢道はなくなり 的しか存在しない 矢筒…… 高校卒業してから弓を引いていない。何十年も。 そして、今は リウマチであちこちの関節はボロボロ。もう弓を引くことはない。 でも、私の青春。弓道に出会って良かった。