クモリン 小さな生き物のつぶやき

つぶやくように詩を作っていきたいです

上野の二人

   上野の二人

 

上野の大きな噴水の脇を

二人が並んで歩いていた

星が瞬く空の下

 

一人は明治時代にエジプトから来たミイラ

いつもは東京国立博物館に横たわっている

紀元前生まれ 男性で二千年以上前の人

名前は パシェリエンプタハ

永遠の命を願ってミイラになった

 

もう一人は平成に東京の谷中から来たミイラ

いつもは国立科学博物館に座っている

江戸時代生まれ 女性で二百年ぐらい前の人

名前は 分からない

偶然にミイラになってしまった

 

時代も 国も 生まれや育ちも 何から何まで皆違う

それなのに……

「私は美人だったのに こんな姿になっちゃって」とか

「本当に この姿を見られるのは イヤなものだ」とか

ミイラになってからの話や生きていた頃の話に夢中になっている

 

星々が消え

辺りが明るくなって

二人の姿は消えていた